第二話「 エアインテークが、あったから 」
「この穴、何?」
										たしか3回目のドライブデートの時に道子が聞いてきたのが、SUBARU車のボンネットに開いた穴。エアインテークのことだった。
									

「エンジンの吸気や冷却のためにはこれが必要で、空気を取り込むことで…」と話し出したら、笑われてしまった。
										「鼻の穴をそんなに広げて話さなくても…」
										道子のその笑顔にすごく惹かれたのが、付き合うきっかけだった。
										あれから3年。
										秋も深まり、北風がまもなく訪れる冬を予感させる11月。
										来年早々に控えた結婚式の打ち合わせに向かう朝だというのに、眠気が抜けないのは、日頃の疲れが溜まっているせいばかりではない。
									

										前回の打ち合わせの時にも、どこか浮かない顔をしていた道子に、帰り道どうしたのか聞いても、「何でもない」のひと言。
										最初結婚に乗り気だったのは、道子の方だったはずなのに。
										「今日の打ち合わせは延期して、二人でどこかドライブに行こうか」
									

										最初は少し驚いたようだが、賛成してくれた道子を連れて、
										学生時代に二人でよく行った丘まで走らせた。
										他愛もない話をしながら、どこか道子の言葉の先の方を探してしまう。
										陽が暮れはじめ、肌寒さを感じはじめたとき、道子が「ごめんね、ひっかかっているわけじゃないんだけど」と、ポツリと言いはじめた。
									

										「この間、みんなで食事をした時に、プロポーズの言葉って聞かれてたでしょ?笑ってごまかしていたけど…」
										思わず言葉に詰まった。きちんとプロポーズの言葉を言っていなかったのだ。
										どうにも面と向かって言葉にするのが苦手なのを理由に、言わないままでいたのだ。
									

										黙って車に戻り、かじかんだ手を自分の息で温めている道子の手を取った。
										そして、エアインテークにそっと添えた。
										手の体温とターボエンジンならでは温もりが全身に伝わった。
									

										「一緒にいたい、です。」そう言うのが限界だった。
										「なんかこの穴、ポストの投函口みたいだなって思って、乗ることためらってたの。
										今じゃ、ちゃんと正式名称を覚えちゃってるけどね。
										っていうか、ポケットじゃなくてエアインテークに手をいれるのおかしいけど。」
										そう言って、思わず笑っていた。道子の笑顔を久々に見た気がした。
									

										最初にエアインテークの説明をした時の道子の笑顔を見た時から、
										この笑顔をずっと見ていたいと強く思っている。だからこのクルマに乗り続けている。
										その気持ちは伝えずに、手を握りつづけた。
									

										「エアインテークが、あったから」
										この物語は、SUBARUを愛する人々の実話に基づいています。
										そしてこれからも、SUBARUを愛する皆様によって紡がれていきます。
									


コメントする
星六輝(ほしむつき)連続小説映像第二話への皆様の感想をお待ちしています!