「輪行」とは電車やバス、航空機などの交通機関に載せて移動すること。今回は東京湾(隅田川の下流)から、浅草までをつなぐ水上バスを利用した自転車旅を愉しみました。
手ぶらでもOK! 水上バスと自転車で隅田川をゆく。
非日常のご近所輪行旅


輪行はある地点から、ある地点までまるでワープするかのように移動して、しかも到着した地点でライドが愉しめる人気の移動方法。自走する区間が短くなるため、初心者にもオススメできる自転車の愉しみ方です。今回は隅田川を上流に向かって航行する水上バスを使って、電車や飛行機などとは違った旅をご紹介します。
今回は東京湾から浅草まで水上バスを利用し、浅草周辺を自転車で散策。再び浅草から水上バスに乗り戻ってくるルートです。
船を使って隅田川をさかのぼるには、
・東京公園協会の「東京水辺ライン」
・東京観光汽船の「TOKYOCRUISE」
どちらかの水上バスを利用する必要があります。
「東京水辺ライン」はウォーターズ竹芝~浅草間を、「TOKYOCRUISE」は日の出桟橋~浅草間を結んでいます。発着場所、運行時間などが違っているほか、天候(波の状況)によっても運行状況が変更になりますので、利用の際にはそれぞれの情報をしっかりチェックしましょう。どちらも乗ってみたいと思っていたので、行きは東京水辺ライン、帰りはTOKYO CRUISEを利用しました。

さて今回は「手ぶらの旅」ということで、レンタサイクルも使ってみました。東京水辺ラインの出発地点、ウォーターズ竹芝で自転車をレンタルし浅草に向かいます。

奥に見えるのがこれから乗船する水上バスです。屋上デッキに出られるタイプで、ぐるり360度、水上の景色を堪能できるタイプ。乗る前から期待感が高まります。

ここで船内に自転車を持ち込むためのルールについて少し紹介を。どちらの水上バスも自転車が輪行袋に収納されていれば、追加料金なしで持ち込みは可能です。
「TOKYO CRUISE」は、袋に入れていない状態でも持ち込み料金(子ども料金と同額)を支払えば、走行状態(袋に入れなくても)で乗船が可能です。この点から考えるとTOKYO CRUISEの方が、輪行に不慣れな初心者でも利用しやすいかもしれないですね。今回、行きは東京水辺ラインを利用したので、輪行袋に収納して乗船しました。

乗船してすぐに出港です! 水上バスは滑るようにゆっくりと進み、竹芝を後にして東京湾に乗り出します。

いかにも「出港!」という風情の水門をくぐり東京湾へ。潮風が心地良い・・・というより、かなり冷たい!ただし風は冷たいのですが、広い空がパッと広がり解放感がたまりません!
水の上から愉しむ14の"橋"

水門を出て左に舵をとると、すぐ隅田川にかかる最初の橋「築地大橋」が見えてきました。浅草までの間、隅田川には14もの橋があり、それぞれの特徴的なデザイン、歴史を学ぶのも愉しみのひとつ。陸から眺めるのも良いものですが、水上から橋を眺めるのもまた違った風情を感じます。

次に通過するのは「勝鬨橋」です。隅田川にかかる橋の中でもかなり特徴的な橋で、中央部分がハの字型に開いて船が通過できる「跳開橋」としても有名。その歴史的、技術的な価値から重要文化財にも指定されています。

相変わらず風は冷たいのですが、航行は順調。グングン上流に向かって進んでいきます。竹芝から浅草までの移動時間は約40分。電車でも自転車でも大体同じくらいの時間で行けるのですが、気分的にはなんだかのんびりしている感じがします。
さてこの画像の橋は「永代橋」ですが、ご覧の通り水面からの高さが、周囲の橋より低くなっています。

そのため屋根スレスレを通過! 屋上デッキに上がれる「東京水辺ライン」ならではの船旅の愉しみ方もできます。

さてこの辺りになると、スカイツリーの姿もはっきり見えるようになります。まもなく浅草に到着します。
浅草周辺をのんびりポタリング

自転車を使っての散策を「ポタリング」といいますが、今回の浅草周辺ポタリングは、
・浅草周辺
・両国周辺
・蔵前
隅田川を一旦下って、再び浅草まで戻るルートを走ります。

雷門&スカイツリーという定番すぎるほどの定番な景色をまずは堪能し、走り始めます。

行動制限も解除されてかなり混雑している仲見世通りを避け、人通りの少ない裏通りを歩きます。古さと新しさ、伝統とモダンが混在している不思議な雰囲気。

美味しいものがたくさんある浅草ですが、花やしき裏手にある昭和風情を感じる喫茶店でランチを。「ロッジ赤石」は昭和48年創業の老舗です。名物のナポリタンは、太めのパスタを甘めのケチャップでまとめた懐かしい味わい。テーブル筐体の麻雀ゲームが稼働しているなど店内もレトロな雰囲気が溢れていています。

さて美味しいランチをすませたところで、隅田川沿いを下っていきます。ただ、隅田川沿いの歩道「隅田川テラス」は自転車の走行が禁止。なるべく川風を感じたく、川が臨めるところを探して走っていきます。
相撲だけじゃない街"両国"を走る

浅草から15分ほどで両国周辺に到着です。両国駅に面した国技館通りには、歴代の横綱のブロンズ像と手形が数箇所に設置されているほか、両国国技館があり、相撲の聖地として知られています。この聖地としての歴史は古く、江戸時代にさかのぼります。当時相撲はいろいろなお寺の境内で行われていましたが、いつしか両国にあった回向院(えこういん)が定番の場所になったとのこと。そこに初代の国技館が建設され、戦後、蔵前の国技館に場所が移り、1984年に両国国技館(2代目)が完成し現在に至っています。

その初代の国技館があった回向院もまだ両国にあり、今でも多くの参拝者でにぎわいを見せています。境内には本尊の阿弥陀如来のほか、時代劇で登場する義賊、ねずみ小僧の墓石も安置されています。

大名屋敷から千両箱を奪い去り、町民の長屋に小判をおいて立ち去る、鼠小僧の姿はドラマでよく描かれていますが、彼は実在の人物。長年捕まらなかったという運にあやかるため、墓石を削ってお守りにする風習が広がり、現在も特に合格祈願に来る受験生が多いとのこと。確かに墓石は削られて凸凹です。

両国にはもうひとつドラマの舞台になった場所もあります。忠臣蔵の討ち入りで知られる吉良邸です。現在は本所松坂町公園としてその一角のみが残されていますが、かつては8400㎡という広大な屋敷を誇っていました。地図で確認するとその広大さに驚かされます。

公園内には吉良上野介の像も。忠臣蔵の中では"極悪人"として描かれていますが、近年では、実は"名君"だったとして評価している研究もあります。いずれにせよ訪れる人がちらほらいて、今だに人気のスポットには違いないようです。

また両国のある墨田区は葛飾北斎ゆかりの地でもあります。北斎が人生のほとんどをこの付近で過ごしたことにちなんで建設された「すみだ北斎美術館」にも立ち寄りました。

常設展と企画展の両方が開催。常設展にはおなじみの「冨嶽三十六景 凱風快晴」などが展示され、一部の作品は撮影も可能です。また作品の近くにはタッチパネル式の説明用モニターがあり、理解を深めながら北斎を体感できます。

かなりリアルな作画中の北斎フィギュアもあり、すっかり長居してしまいました。
蔵前のカフェでコーヒーブレイク

北斎美術館を後にしてそろそろ帰路につきます。浅草から再び船に乗る前に、蔵前で少しブレイク。このあたりは東京のブルックリンと呼ばれていて、古くからある問屋さんの間に、新しいおしゃれなカフェが点在しています。川沿いの風景がマンハッタンを想像させる、というところもブルックリンと呼ばれる所以のようです。

たっぷりと味わえる濃厚で香り高いコーヒーを飲みながら、しばしの休息です。
薄暮の中をクルージング

本来ならば、もう少しのんびりしたいところですが船の時間が迫っていたこともあり、再び浅草の桟橋にやってきました。帰りはTOKYO CRUISEを利用します。前述しましたが、この水上バスは追加料金を支払う必要はありますが、輪行袋に入れなくても乗船が可能です。

今回は折り畳み自転車のブロンプトンをレンタルしたので、輪行袋に入れるのも簡単なのですが、やはりそのまま乗船できるのは段違いに楽々! 自転車と一緒の旅ならTOKYO CRUISEの方が快適かもしれないですね。

夕暮れが近づく浅草を後に再び船上の人に。所要時間40分ほどなので、スカイツリーがみるみる小さくなっていきます。

TOKYO CRUISEの水上バスは日の出旅客ターミナルに到着します。自転車を借りたウォーターズ竹芝までは5分ほど。そのころになると日も落ちかけて、ビル群の夜景を楽しみながら走ります。

朝とはまったく違った夜景に出迎えられて無事に到着。船の時間を気にしながらの少しあわただしい旅になりましたが、自転車で桟橋に行き一緒に乗船。海風を感じながら水上を進み、また自転車で走り出す――。陸からの景色とはまったく違った景色と、いつもの自転車の両方を愉しめる「水上バス&自転車の旅」。
輪行ができる人なら自分の自転車でもOKですし、初心者なら手ぶらでもOK。走れる体力がなくても愉しめるので自分なりの船旅を愉しんでください!
- 取材協力/ル・サイク アヴァン
- 取材・撮影/今 雄飛(こん ゆうひ)