工作機を使わず人力で掘られたトンネルを素掘りトンネルと言いますが、房総半島には素掘りのトンネルがかなりの数点在していて、全国でもトップクラスのようです。
それも明治・昭和初期に掘られたものが多く、100年近く経過したものはかなり赴きがあります。
ところによっては、入るのを躊躇うようなものまでありますが、多くのトンネルは丘陵地帯で丘を越えるのを省くためにショートカットような役割を果たしているものばかりで、街道から農地や水場へのアプローチなど生活道路としてつかわれていたようです。かなり古いものになると車一台通れないようなものや、舗装されていなかったりしますので車で訪問するのは避けたほうがよさそうです。
そんな趣のあるものですし、細い道となると自転車はうってつけ。自転車だけでなくオートバイで訪問するツーリストも多いようで、密かな人気を集めているそうです。
素掘りトンネルをくゞる房総の秘境巡りライド

チョット背筋もひんやりする!?
そんなトンネル巡りライド、今回は房総半島の真ん中あたり、小湊鐵道 月崎駅を起点に亀山ダムを経由するおよそ70kmのコースを走ってみます。
東京都心からおよそ1時間半ほど。アクアラインを通って向かいます。

今回の旅のお供は、スバル・レヴォーグ STIです。房総半島のアップダウンに富んだ道でもスムーズに走ってくれる頼もしい走破性能で、ストレスなく現地に到着します。房総の道は曲がりくねったような場面も多く、運転に慣れた方ならそれを楽しむ余裕もあります。あまり慣れていない人でもスバル・アイサイトのセイフティテクノロジーによる運転アシスト機能が、スムーズなドライブをサポートしてくれます。

小湊鐵道 月崎駅。電車を待ち構えるなら、数えるほどしか走っていませんので時刻表を確認しましょう。
小湊鐵道 月崎駅は無料駐車場となっています。15台ほどの駐車が可能。正面の売店では駅の入場券購入やマップが手に入ります。
月崎駅を起点としたサイクリングコースマップもあるので、また別の機会にご案内します。

未舗装区間ですが、ロードバイクでも問題ありません。

永昌寺トンネルは明治時代から残っている歴史あるトンネルです。珍しい形状ですね。
ここから数分の場所に、永昌寺トンネルという景勝地にも認定されている素掘りトンネルが。
路面はダートですがロードバイクでも問題ありません。将棋のコマのような五角形をした日本古来の「観音掘り」というもの。明治31年(1898)のものです。
この先の激坂を進むと柿木台第二トンネル・柿木台第一トンネルもあり、こっちもなかなか風情があります。一人で行くと心細いかもしれません…。
トンネルまでのコースは小湊鐵道の路線沿いなので運行時間に合わせていけば、電車との並走も可能ですよ。

針葉樹に囲まれた、100年前からある素掘りトンネル。単独では行きたくない…雰囲気があります。
地球の秘密を紐解くヒントが千葉・月崎にあるんです
この月崎駅のすぐ近くに、チバニアン(地磁気逆転期地層)という地球46億年の歴史上、最後の磁気(S極とN極)の逆転が起きた痕跡がある場所ということで大きな話題を集めました。令和2年1月に認定をされたばかりです。養老川沿いにその場所は認められますが、自転車を停め徒歩で向かう必要があります。また川沿いを歩いて進みますが、とても滑りやすく自転車シューズだと転倒してしまうかもしれないので注意しましょう。

チバニアンまでのルートは急勾配でサイクリングシューズ向きではないので、くれぐれも注意してください。
コースは大多喜君津線(県道32号)を南下。小湊鐵道&養老川と並行して進みます。普通に近代的なトンネルがありますが我々の目的はそこじゃあありません。小湊鉄道・上総大久保駅、また旧市原市白鳥小学校がランドマークになります。
この細くアップダウンに富んだサイクリング向きの道を進みます。車はほとんど通りませんが、道は荒れている箇所があるので慎重に。車が一台通るのがやっとな芋原第一隧道、すると斜面をくり抜いた芋原第二隧道が現れます。そしてさらに進むと分岐があり杉畑第一隧道が現れます。

連続する2つの杉畑トンネルを潜って進みます。

美しい素掘りトンネルを通過します。モルタルで補強していますが、きれいにくり抜かれた見事な造りです(右)。
そのままトンネルの先へ進むともう一つ素掘りトンネルがあります(左)が今回は写真を撮ったら熊野神社方面へ。丘を上ると途端に大きな道へ抜けることができます。

御里津大橋は養老川にかかっていて、県道32号へぬけることができます。
養老川を越えますが、絶壁の上にかかる御里津大橋はなかなかの高度で気持ちがいいです。ここまででもミステリアスなサイクリングが十分に楽しめますが、見所は終盤にありますよ。
景色が開けたら、清澄養老ライン(県道32号)へ。すぐにT字路の分岐があります。「ようこそ養老渓谷へ」の看板に従って、右折します。ここからが見所。
メジャーな2層式トンネルは必見です

養老駅付近の通りは飲食店が立ち並んでいます。
見通しの良いアップダウンコースを抜けていくと養老渓谷駅が。このあたりは観光施設や宿が立ち並び、少し賑やかな感じになりますが、非常に走りやすく心地よいペースで進めるでしょう。
次のポイントは有名な「素掘り二層式トンネル(向山・共栄トンネル)」へ。フランス料理店の看板が見えたら、道路を渡って山間に向かって右折します。するとすぐに光の刺すトンネルが見えてきます。新旧2つのトンネルが重なる素掘りトンネルで、利便性を高めるために下に新たに掘ったそう。よって東側からは「向山トンネル」といい、西側からは「共栄トンネル」と2つの名前をもつ大変珍しいトンネルということです。そして何より写真映えがすごい。自転車でも通過できますが車も通りますので注意しましょう。観光客が少ないときはゆったりと撮影ができるでしょう。
トンネルを抜けると弘文洞跡という崩れていなければ養老川の支流にかかる壮大な隧道があったそうですが、現在は切り立った崖を残していて、抜けの良い景色を楽しめるとのこと。
さらにこの先にもダイナミックな素掘りトンネルがあります。

素掘り二層式トンネル(向山・共栄トンネル)は、訪問する価値あり!

向山・共栄トンネルを抜けた先には、近代とのハイブリッドな素掘りトンネルも。

このサイバーチックなトンネルは、国道465号、現在工事中のトンネルです。交通規制がかかっているのでトンネル内部で停車はできません。また工事期間は令和5年1月までですので気をつけて通りましょう。

名もなき素掘りトンネル。情緒があります。
道中、最後のトンネルは、亀山郵便局のすぐ近くにある、名もなき素掘りのトンネル。この先は私有地だと思われます。映画のワンシーンのような雰囲気を楽しんで引き返します。
亀山湖畔の南側にも素掘りトンネルが点在していますので、こちらを探索しても面白いでしょう。千葉のルートは街道をつなぐショートカットがあまりないので、コースがダイナミックになります。
今回もぐるっと南房の山塊地帯に大周回を描いたコースで、風景の移り変わりを楽しめます。
いまや名所の切通しトンネル!
35kmほど内房側の富津市は燈籠坂大師にある切通しトンネル(〒299-1622 千葉県富津市 萩生8-2)は人気を集めるスポット。ドライブがてら寄ってみましょう。西陽が差し込む午後がとてもきれいに切り立った壁面が映えますので、ライドの帰りにお立ち寄りしてみてはいかがでしょうか。

入り口に数台駐車できるスペースがあります。切通しトンネルの先には神社(燈籠坂大師/東善寺)があります。神社の上には16世紀に防衛の拠点だった造海城という遺跡がありますが、サイクリングシューズでは歩くにくいので注意しましょう。

そのあと、ちょっと小腹が空いたなら同じく富津にあるサイクリストフレンドリーなカフェのカフェグローブ(〒293-0057
千葉県富津市亀田1237)で、美味しいコーヒーとスイーツでエネルギー補給をどうぞ。ちょっと入り組んだ場所にありますが、この癒し空間は訪問する価値あり。ランチタイムには食事も可能です。店主の濱本さんは、学生時代から自転車競技を続けるサイクリストです。芸術家一家で敷地内に日本画家の高増暁子さんのギャラリー兼収蔵庫「小さい美術館」があります。
ホームページ:https://cafe-grove.space/
東京からアクセスもいい房総の地で、クルマと自転車だからこそという楽しみ方のご提案でした。
テキスト&写真/山本健一
サイクリスト、編集者、文筆家、イベントディレクター。若かりし頃は自身の可能性を求めてプロサイクリストを目指す。現在は経験を生かして、スポーツ自転車の素晴らしさを多くの人たちへ啓蒙することをライフワークとしている。最新機材の試乗インプレッションから、国内外のレース・イベント取材をはじめ、国内のイベントディレクションなど幅広くこの世界に携わっている。