朗らかな春の陽気に誘われてペダルを漕ぐリズムも軽やかになる季節。何かと制約の多い日常が続きますが、たまには大自然の中でサイクリングを楽しめば心身ともにリフレッシュできます。今月は、自転車ジャーナリストのハシケンさんと、モデルでサイクリストの日向涼子さん夫婦が、春の訪れを感じる筑波山で「ツクイチ」山岳ロングライドにチャレンジします!
筑波山をグルッと一周!
はじめての「ツクイチ」

ロングライドの定番「○○イチ」

琵琶湖一周はビワイチ。霞ヶ浦一周はカスイチ。浜名湖一周はハマイチ。湖を一周する湖畔沿いの道は走りやすく、特に半時計まわりに走ることで信号ストップも少ないコース設定ができ、ロングライドには最適な条件が揃います。そのため、「○○イチ」は主に湖をグルッと走るロングライドの定番プランとしてオススメです!
実際、ビワイチとカスイチのコースは、日本を代表するサイクリングルートとして国内でまだ3つしかない「ナショナルサイクルルート」(国交省が選定)に指定されています。そのうち、カスイチの含まれる全長180kmの「つくば霞ヶ浦りんりんロード」は、関東エリア唯一のナショナルサイクルルートとして、ここ4年ほどで人気急上昇中です。

そんなある日、ふと思い浮かんだのです。以前に「カスイチ」は実走レポートしたので、今度は筑波山を一周してみよう……。「ツクイチ」最大の特徴は、言わずもがな山岳エリアが舞台です。そのため、湖畔を走る「○○イチ」とは、同じロングライドでも世界が違います。今回、ハシケンこと私と日向涼子の坂好きな二人が紹介するオリジナルコースは、距離およそ65km、獲得標高1500m超です。今回のコースの高低図をチェックしましょう。

獲得標高差とは、コース全体の中で登った坂道の標高差を合算した数値です。グラフのとおり、今回は大きな4つの峠(坂道)があるため、距離のわりに獲得標高は1500mを超えています。100kmのロングライドのなかで獲得標高が1000mを超えると、「そこそこ登ったなぁ」という感覚になるため、今回はかなり走りごたえ十分の山岳ロングライドと言えるでしょう。

クルマでアクセスして日帰りロングライドへ
筑波山の麓までクルマでアクセスすれば、関東圏から十分に日帰りの山岳ロングライドを楽しめます。最近はしばらく遠方ライドを控えていた二人にとって、久しぶりのロングライドです。今回も大好きなレヴォーグに、ピナレロのロードバイクを2台積み込んで、筑波山までのおよそ1時間半のドライブを楽しみます。現地に着くまでの道中、今回のコースプロフィールをチェックします。筑波山を時計回りに1周する全長64kmのなかに、3〜4kmの峠を3つと、自転車で登れる筑波山の最高地点まで登る距離11kmのロングヒルクライムを含んだ山岳スペシャルコース。走り出す前からワクワク感が抑えられません。


筑波山の玄関口から山岳ライドスタート!

起点は、つくば霞ヶ浦りんりんロードの休憩地点として知られる「筑波休憩所」。クルマの無料駐車スペースもあり、文字通り筑波山の玄関口です。辺りには春らしくすでに桜が咲き始めています。朝9時に「筑波休憩所」を出発! いきなり筑波山への最初の登りがはじまりますが、まだ朝イチなので、ウォーミングアップがてら、ゆったりペースを心がけます。



スタートして2.5km地点。梅林コースへの入り口駐車場があるので、そちらへ左折。毎年2〜3月中旬にかけては山肌一面がピンクに染まる梅林へ入るとグングン標高を上げていきます。なお、2〜3月中旬の「つくば梅まつり」期間中は時間帯によって通行止めなのでご注意ください。


梅林を通過して、さらに登り続けると、最初の峠のピークに到達! 起点の「筑波休憩所」から距離4.4km。ここまで筑波山の西側の斜面をずっと上りっぱなしでしたが、ようやくひと休憩。ただ、ここの峠のピークには特に何もないため、セルフィーで記念写真だけ撮ったら次へ進みます。まだまだ先は長い!

1つ目の峠である「梅林登坂」。登坂距離4.4km で、平均勾配7.6%です


下り区間は、安全第一! 初めての峠の下りは、タイトなコーナーが突然現れたり、路面コンディションをつかみにくいので、心に余裕を持てるスピードで走りましょう。途中、椎尾山薬王院の大きな鉄下駄を発見!
りんりんロードから2つ目の峠へ

1つ目の峠を下り終えたら、「つくば霞ヶ浦りんりんロード」へアクセス。しばらくは筑波山を右手に見ながら、ド平坦の爽快なライドを楽みます。今回のコースは、「つくば霞ヶ浦りんりんロード」を峠と峠のつなぎ区間に設定することで、快適なロングライドを実現しています。山岳ライドのコツは、このつなぎ区間で、次の峠に向けて脚を休ませることです。筑波山の北側へ回り込んだら、ここからは南下して、二つ目の峠へ。


今日2つ目の峠は、登坂距離3.6kmの湯袋峠です。全体的に直線基調で、小川の清流に沿って上り続けます。足は元気ですが、まだコース中盤なので疲労しないように、できるだけ軽いギヤでクルクル回すペダリングを意識します。峠のピークは、つくば市と桜川市の境にあって、今回のコースは桜川市から登りました。

2つ目の峠「湯袋峠」。登坂距離3.6km で、平均勾配7.6%です

2つ目の峠を越えた時点で、距離はおよそ20km。2つの山岳を越えてきたので、距離以上にずいぶん走ってきた感覚があります。下り区間では、菜の花が春の訪れを感じさせます。

その後の23km地点から合流する広域農道である「フルーツライン」も開放的で、信号はほとんどなくロングライドには最適な環境です。筑波山麓には、カフェやコンビニも点在しているので、事前に立ち寄りスポットを決めておき、計画的にライドを進めることも大切です。
朝日峠を越えて筑波山の南麓へ

3つ目の峠が、筑波山の南麓に位置する朝日峠。現在は、朝日峠の下を立派な朝日トンネルが走っているため、昔からある朝日峠の山岳道路はほとんど交通量がありません。そのためか、終始静寂に包まれたヒルクライムを満喫できます。途中で立派な野生のオオタカにも遭遇! 坂の勾配は、ここまで2つの登坂とさほど変わらないものの、今回の山岳コースも中盤に差し掛かり、徐々に疲労が溜まってきたようです。


筑波山はパラグライダーのメッカとしても知られています。朝日峠のピークにある展望台にもパラグライダー発射場があって、関東平野を一望できます。クルマ通りがない朝日峠ですが、一点注意したいことがあります。今回のコースの下り区間にあるクルマのスピード抑制を目的とした凸凹のバンプです。路面にはマーキングされて注意喚起していますが、この区間はより一層の減速が求められます。路面状況を確認しながら、ゆっくりと下りましょう!

3つ目の峠「朝日峠」。登坂距離3.1km で、平均勾配7.9%です
つくば霞ヶ浦りんりんロードから筑波山最高地点へ

朝日峠を下り終わったら、いよいよ最後の登坂になる不動峠に向けてペダルをこぎます。筑波南麓を走る「つくば千代田線」は、今回のルートの中で唯一クルマ通りが多めなので走行には少し注意しましょう。ただ、それも4kmほどで、その後は再び「つくば霞ヶ浦りんりんロード」に接続できます。この地点でスタートからおよそ40km。今回のツクイチルートの中で、もっとも南端に位置していて、ここから「つくば霞ヶ浦りんりんロード」を北上して、最後の登りになる不動峠の登り口をめざします。
ところで、今回のツクイチルートは、「つくば霞ヶ浦りんりんロード」をこのまま北上し続ければ、スタート地点に戻ってくることができます。そして、綺麗な1周ルートを描けます。でも、坂道が大好きな二人としては、自転車でいける筑波山の最高地点を到達したうえで、ツクイチを達成したい!
不動峠の麓の「ひるくらいむ」でランチ休憩
ここまでスタートから距離45km。峠を1本上り切るごとに携帯の補給食でエネルギー補給はしてきましたが、そろそろ本格的に腹ごしらえしたいところ。そこで、不動峠の入り口にあるレストラン&カフェの「彩食工房 ひるくらいむ」でしばしのランチ休憩です。
その名前の通り、筑波山でヒルクライムを楽しむサイクリストにとって、馴染みのお店です。オーナーも自転車を楽しまれていて、店内には自転車関連グッズがたくさん。また、不動峠の最新情報もSNSで積極的に発信してくれているので、サイクリストフレンドリーなお店です。今回のランチは、看板メニューのスペアリブ定食をいただきました。


完全リニューアルされた不動峠へ

いよいよ最後のヒルクライムへ。筑波山に数ある峠の中でも圧倒的知名度を誇る不動峠。不動峠自体は距離3.9kmですが、その先には、今回のルートの中で最長標高地点となる筑波山のロープウェイ駅がある「つつじヶ丘駐車場」までの登坂が続きます。全長11kmのヒルクライムは、今回のツクイチルートのハイライトです。



この不動峠は、長年サイクリストに親しまれてきましたが、路面が大きく荒れてお世辞にも走りやすいとは言えませんでした。ところが、2021年始めから不動峠の全区間の舗装が敷き直されて3月中旬にリニューアル。しかも、サイクリストに特化した専用標識も設置され、大注目です! かつての悪路が嘘のように、凸凹ひとつない滑らかな路面は走りやすく、坂道をスイスイ上っていける感覚です。


不動峠のゴール地点にも標識が設置されています。こうして、サイクリストが歓迎されていることは嬉しいことです。だからこそ、私たちは路面を整備していただいた地元の皆さんに感謝し、期待を裏切ることの無いよう、交通ルールを守り、下りでスピードを出しすぎないなど安全なライドを心がけましょう。

4つ目の峠「不動峠」。登坂距離3.9km で、平均勾配7.0%です



不動峠から、尾根伝いを走る表筑波スカイラインに入って、最高地点のつつじヶ丘駐車場まで登り続けます。距離はまだ50km少々ですが、すでに4つ目の峠ということで、疲労の色を隠せません……。でも登り切れば、あとはスタート地点の「筑波休憩所」までは下るだけなので、最後の力を振り絞って頑張るのみです。

自転車でいける最高地点の「つつじヶ丘駐車場」で到達記念撮影。駐車場内に鎮座する「筑波山神社」の巨大ガマガエルは、筑波山名物のガマの油にちなんだもの。最高地点は疲れも吹き飛ぶ達成感があります!


ゴール地点に向けては、筑波山神社の大鳥居がある笠間つくば線を下ってゴールをめざします。そして、ゴール地点手前にある人気の「沼田屋」に立ち寄って、お土産のかりんとう饅頭をゲット!
スパイスの効いた山岳ロングライドにぜひチャレンジ!

こうして、朝9時にスタートして、夕方16時半ごろに戻って来られました。全長64kmで総累積標高1588mの筑波山エリアを舞台にした、山岳ロングライド「ツクイチ」を無事に達成! 4つの峠をつなぎ、筑波山をぐるっと一周する達成感が最大の魅力です。そして、クルマで筑波山の麓までアクセスすることで、朝から夕方までたっぷりとロングライドを満喫できます。
ロングライドといえば、できるだけ平坦基調な道で長い距離を走ることが一般的ですが、山岳ロングライドでは、コースの中に坂道を加えることでロングライドにスパイスを効かせることができます。当然フラットなロングライドよりは距離は短くなりますが、その分ギュギュと凝縮した達成感があり、その魅力に一度ハマると、ついついコースに山岳を加えたくなるでしょう。
いよいよ春から夏、そして秋へとサイクリングシーズンが本格化します。皆さんも体調にはお気をつけて、楽しいサイクリングライフをお過ごしください。そして、ぜひ一度、私たちたちが今回実際に走った山岳ロングライド「ツクイチ」にも挑戦してみてください!
Special Thanks
今回のバイク&ウエア

今回ともに走ったバイクは、イタリアンレーシングブランドの雄であるPINARELLO(ピナレロ)です。そのピナレロが長年培ってきた高性能なテクノロジーを具現化したモデルがプリンスFX(左)とプリンス(右)。今回のような山岳ロングライドでは、登りを気持ちよく走ってくれる登坂性能も大事ですが、下りでの安定したバイクコントロール性能も欠かせません。実際に走ってみて、山岳ロングライドを快適に走るためには、プリンスシリーズのように高次元でバランスが取れたモデルは走りに余裕が生まれるのでオススメです。また、サイクルジャージはDOTOUT(ドットアウト)。こちらもピナレロと同郷のイタリアの洗練された大人なデザインが特長です。
日向涼子が乗ったプリンスFX
山岳性能を高めるため、ホイールにはフルクラムの軽量&高剛性モデル「レーシングゼロカーボン」をオリジナルでチョイスしています。実際の販売仕様とは異なります。
ハシケンが乗ったプリンス
プリンスFXと同じテクノロジーを採用しつつ、フレームの剛性感をややマイルドにコントロール。非常に魅力的な完成車パッケージに仕上がっている一台です。
バイク PINARELLO(ピナレロ) https://www.riogrande.co.jp
ウエア DOTOUT(ドットアウト) https://www.dotout.co.jp
プロフィール
ハシケン(橋本謙司)さん
スポーツ自転車を専門にする自転車ジャーナリスト。自転車専門誌やウェブメディアにて複数の連載をもち、自転車の情報を発信する。30代後半に差し掛かる今も、アマチュア自転車レースに積極的に参加し、数々のタイトルを持つ。長野県松本市の乗鞍岳の山小屋の経営にも携わるhttps://www.hashikenbase.com
日向涼子さん(モデル&サイクリスト)
広告モデルとして活動する一方で、2010年からロードバイクを始め、長年にわたり自転車関連のTV番組、サイクリングイベントにゲスト出演。専門誌でヒルクライムをテーマにした連載をもつ。書籍に「<坂バカ式>知識ゼロからのロードバイク入門」「日向涼子のヒルクライムナビ」など
https://cycle-concierge.jp
http://ryokohinata.com